呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 暫くすると、謁見室の重厚な扉が開かれる。視線を向けるとそこには壮年の騎士が立っていた。背は高くがっしりとした体躯で頬には剣の傷跡がある。服の袖から覗く腕にも幾つも切り傷の後があるので長年騎士として戦ってきたことが窺える。

 そんな彼はイザークに最敬礼した後、カヴァスを見るなり癖のある髪を逆立てて怒りを露わにしていた。

「カヴァス、やっと見つけたぞ。また約束の合同訓練をサボりやがって! 側近騎士で近衛第一騎士団の団長のあんたがそんなだと、部下たちに示しがつかんだろうが!!」
「やあやあ、マーカス・ベドウィル伯爵。いや、第二騎士団長。私の団の心配をしてくれて大変ありがたいけれど、第一騎士団には優秀な副団長がいるから大丈夫だよ」

 甘いマスクに笑みを浮かべて答えると、マーカスは渋面を作って舌打ちをした。
「女の尻ばかり追いかけず、真面目に剣を握ったらどうなんだ? んん?」

 ベドウィル伯爵家は魔物討伐や国境守備で武功を立ててきた家柄だ。そのため鍛練は厳しく、カヴァスに怠け者だというレッテルを貼って毛嫌いしている。
 そして、長年務めていた第一騎士団の団長の座をカヴァスに奪われたものだからずっと目の敵にしているのだ。

 本人や彼を慕う周りの者たちは年齢による体力の衰えのせいだと主張しているが、実際カヴァスは才能の持ち主でその剣技は現役だったマーカスよりも上であることをイザークは知っている。
 もう少し鍛練に真面目に出ていれば摩擦を生むこともなかったのかもしれない。が、生真面目なキーリとは上手くいっているので根本的に二人の相性が悪いだけのようだ。

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