呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「叱られてしまったし、今日は必ず行かないといけないね。マーカス殿、逃げずに鍛練場に向かうので先に行ってくれないかい?」
「絶対だぞ!! 次に合同訓練をサボったら貴様の部下に地獄の鍛練メニューを組んでやるからな!」
捨て台詞を吐き捨てるとマーカスは大股で部屋から出て行った。
カヴァスは頬を掻きながら「部下に八つ当たりするのは困るな」と呟く。
「近衛騎士団の鍛練もあるのに無理をさせているようだ。……すまない」
個人的な任務を頼んでばかりだったことを謝るとカヴァスは首を横に振った。
「側近騎士と近衛第一騎士団の団長は自分が望んだことだから。両方手に入れられて、私は陛下には感謝しています。騎士団長の地位だけだと毎日男だらけで絶えられそうになかったし。ね?」
カヴァスらしい言い分に声なく笑っていると、突然激しい音を立てて扉が開いた。
視線を向けると今度はキーリが両手を広げて立っている。
廊下には衛兵がいて開けてくれるはずなのに、何故か彼自らが開け放ったようだった。
「陛下、緊急事態です!」
他の人が見ればいつもの生真面目なキーリだと思うだろう。しかし、付き合いの長いイザークはすぐに異変に気づいた。
キーリが片眼鏡を執拗に掛け直している場合はただならぬことがあって、動揺している時だ。さらにうわごとを呟いているので尋常ではない。
「どうした? 一度息を整えて話せ」
キーリは言われたとおりに深呼吸を何度か繰り返し、漸く片眼鏡から手を離した。
「フレイア嬢が妃候補として仮宮へ入宮しました。最近は猫の献上を阻止することで必死になっていたので……盲点でした。申し訳ございません!」
その言葉を聞いてイザークとカヴァスは目を見開き、お互いの顔を見合わせた。