呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 それを見たシンシアはハッと息を呑んだ。

(瘴気を含んだ水が地下水路を通って噴水から噴き出していたんだ!! 噴水の水は水路を通って池に留まり続けるから、微量だとしても蓄積すれば蒸発して瘴気になる)
 ここまで分かればあとは簡単だ。水の流れと逆の方向へ向かえば良い。逸る気持ちを抑えて、シンシアは水路を辿っていく。


 地下水路は中庭の小道の下に設けられている。張り巡らされた水路はある一箇所に集まって一本となり、中庭の端へと続いていた。

 景観が損なわれないよう高い生け垣が壁のようにそびえていて、それを越えると石造りの井戸があった。そして手前には祭服に身を包む青年が立っている。

『ルーカス!?』
 名前を呼ばれたルーカスは振り返ると、目を見開いてシンシアを見つめてくる。

「シンシアが何故ここに?」
 それはこちらの台詞だ。

 どうしてルーカスがこんなところにいるのか不思議で仕方がない。が、このところヨハルがイザークに呼び出されていることを思い出す。
 恐らく護衛で宮殿に来ていて、ルーカスもまた瘴気を感じてここまで辿り着いたのかもしれない。

『ルーカスが宮殿にいるってことはヨハル様も一緒なのよね? ヨハル様はどこにいるの?』
 するとルーカスは目を閉じて首を横に振った。

「残念ですが、私は兄上に用事を頼まれて来ただけなのでヨハル様はいません」
『なら、ルーカスにお願いがあるの。あなたも瘴気を感じたからここにいるんだろうけど、井戸の中に魔瘴核があるの。でも魔瘴核は教会が厳重に管理しているから紛失するなんてあり得ない。誰かが持ち出したみたいだから、犯人を調べて欲しい』

 言うが早いか、シンシアは井戸の縁に飛び乗って水面を覗き込む。中は真っ暗だが、幸いなことに水嵩が浅く澄んでいるお陰で魔瘴核がどこにあるのか一目で分かった。ニワトリの卵くらいの魔瘴核の欠片がひっそり瘴気を水中に吐き出している。

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