呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
「シンシア!」
ルーカスはシンシアが井戸の縁に立つのを見て慌てるとこちらに手を伸ばして走ってくる。いつものうっかりで井戸に落ちるかもしれないと心配されているのかもしれない。
シンシアは走ってくるルーカスを気にも留めずにティルナ語を詠唱して浄化にあたった。すぐに組紐文様の魔法陣が現れて赤色の魔瘴核が青色の清浄核へと清められていく。
浄化が無事に終わってシンシアが安堵する一方で、井戸に辿り着いたルーカスは井戸の中を覗き込む。やがて唇を噛みしめるときつく握り締めた拳を井戸の縁に打ちつけた。
いつも冷静沈着なルーカスが珍しく怒りで身を震わせている。元々正義感が強い青年なのでこういった小賢しい行為が許せないのかもしれない。
「ルーカスが怒るのも無理ないけど、今は調べるのが先よ」
井戸の縁から地面に降りると、シンシアは怒りを静めるよう諭す。と、ルーカスは俯いたまま、ぼそぼそと何かを呟いた。
「……んて……か」
「え?」
何を言ったのかはっきりと聞き取れない。
シンシアがもう一度言うようにお願いすると、今度は顔を上げてはっきりと言った。