呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「ヨハル様はそんなこと望んでない。ルーカスが悪いことに手を染めていると知ったら、絶対に心を痛めるし、悲しまれるわ」
 考え直すように説得すると、ルーカスは唇を噛み締めて舌打ちした。

「良い子ちゃんぶって反吐が出る。なあ、シンシア……」
 そう言ってルーカスは一度後ろ襟を放すと、回り込んで今度は胸ぐらを掴む。
 シンシアの若草色の瞳に険しい表情のルーカスがアップで映り込んだ。

「俺はな、ずうっと昔からあんたのことが大っ嫌いだったんだ!!」
「っ……」

 目を見開いて、シンシアは硬直した。言われた言葉を頭の中で繰り返してもうまく咀嚼できない。
 ルーカスは苦虫を噛み潰したようにシンシアを見下ろす。

「初めて会った時からずっとそうだ。俺が必死で努力して手に入れたものをあんたは易々と奪っていく。ヨハル様の愛も、精霊魔法の腕も、大事なもの何もかも全部!!」

 怒り狂うルーカスにシンシアはどう答えて良いか分からない。不安げに眺めていると、乱暴に地面へ叩き付けられる。
 シンシアは呻き声を上げて身じろいだ。

「あんたはいっつも俺の剣の腕を褒めていたけど、言われる度に癪に障ったよ。俺が修道院に入れられた理由は兄弟の中で学才も剣才もない落ちこぼれだからだ」

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