呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
二人の間にザワザワと風が吹き荒れる。
ルーカスは腰に下げていた剣を鞘から引き抜いた。
「今から死ぬって考えたら怖いだろ? 潔く首を刎ねて楽にしてあげるよ」
剣を振り上げるルーカスはいつもの物腰柔らかい笑みを向ける。その表情にはどこか切なさが混じっていていた。
(駄目、私まだここで死ぬわけには……)
避けようにも拘束されていて身動きが取れない。
振り下ろされる剣を見てシンシアは死を覚悟する。
だがその時――突然短剣がルーカスの手の甲に刺さった。
「……ぐっ!」
不意打ちの攻撃を食らってルーカスの手から剣が滑り落ちた。刺さった短剣は貫通し手からは真っ赤な血が滴っている。
何が起きたのか分からず、シンシアが身を竦ませていると遠くから馬の鳴き声と蹄鉄音が聞こえてくる。気づいたルーカスは怪我を負っていない手で剣を拾い上げるとシンシアに斬りかかった。しかし、今度は弓矢によって防がれてしまう。
ネメトンのような危険な場所に誰が足を踏み入れたのか。
シンシアが疑問に思っていると、二頭の馬が姿を現した。