呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


「何故かこの猫は大丈夫だ。だから俺の猫にする」
「もしかして早く帰りたいのはその猫が理由ですね? はあ、必死になって探していたのが馬鹿らしく思えてきましたよ」

 わざとらしく肩を竦めて嫌味を口にするキーリ。
 雷帝に軽口を叩ける人間はきっとキーリみたいな側近くらいだろう。そしてイザークもまた、彼に何と言われようと気にしていない様子だった。

「早く帰った方がキーリも嬉しいだろ?」
「それもそうですね。仕事は溜まる一方なので一つでも早く片付けて頂きたいです。早速準備しましょう」

 話を聞いていたシンシアは人の言葉が喋れなくなっているということも忘れておずおずと口を開いた。
『あのう、一応この国には選択権というものがあるはずなので、私はここでお別れします……』

 するとイザークが覗き込むようにしてシンシアを見ると満面の笑みを浮かべる。

「おお、そうかおまえも俺と一緒に行くのが嬉しいんだな」
『いや、違っ……』
「鳴くな鳴くな。帰ったらすぐにおまえの部屋を用意させよう」
「陛下、その猫嫌がってません?」
(その通りです。キーリ様のお力で雷帝から私を解放してください!)


 シンシアが懇願の眼差しをキーリに向けるが、イザークは一蹴した。

「ははは。気のせいだキーリ。思い違いも休み休みに言うんだな。さあ転移させてくれ」
『気のせいでも思い違いでも何でもない。事実です。お願いだから解放してええ!』

 そんな悲痛な叫びが通じるはずもなく。
 人権というものがなくなってしまったシンシアは皇帝陛下の愛猫(あいびょう)として、宮殿へ連れ帰られてしまった。

< 28 / 219 >

この作品をシェア

pagetop