呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 寄せ木細工の廊下を進んでいると、陶器の水差しを運ぶ侍女の二人組が前方を歩いている。
 二人は歩きながら声を潜めて話し込んでいた。
 クスクスと笑って楽しげだ。宮殿のゴシップにでも花を咲かせているのだろう。仲の良い女の子が集まってひそひそ話をするとくればお決まりである。

 遠巻きに眺めていると、二人のうちの一人が扉を開けた。廊下の突き当たりにあるそれは中庭とは反対側だ。開いた先から風が入り、外の景色が垣間見える。


 間違いない。あれはずっと探し求めていた使用人出入り口に続く扉だ。
 シンシアは全力で走ると扉が完全に閉まってしまう前になんとか身体を滑り込ませることに成功した。


 外の通路は石畳みによって整備されていて、中庭ほどではないが垣根や樹木が植わっていて景観が整備されている。その先では商人が積み荷を運び、衛兵が誘導していた。

 たちまちシンシアの胸が高鳴った。
(向こうの方で商人も行き来しているし、この先に出入り口がありそうな気がする)
 希望を胸に抱いていそいそと歩き始める。


 すると突然、小さな悲鳴が聞こえてきた。
 声のする方へ頭を動かすと、少し離れたところで三人組の侍女が同僚であるはずの侍女を突き飛ばしていた。悲鳴は突き飛ばされた侍女からのもので、地面に尻餅をついている。

 シンシアは近くの茂みに隠れると、こっそり様子を窺う。
 目を凝らすと尻餅をついていたのはロッテだった。

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