恋愛境界線
scene.11◆ ここに居ればいい
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「私には姉が一人いて、その姉というのが、いわゆる夜の仕事……まぁ、ラウンジ経営をしているんだが――」


そう課長は、ゆっくりと話を切り出した。


店を始めたばかりの頃、一度だけ本当にどうしても人手が足りない時があって、無理矢理女装させられてヘルプとして駆り出されたそうだ。


「これは不本意すぎて正直、話したくもないんだが……その際、男だとバレなかったどころか、そこそこ評判が良かったらしくて、だな」


とりあえず、さっきからずっと黙って聞いてるけど、色々とツッコミどころが多過ぎて渋滞が発生してるんですけど!


かといって、もう、どこからツッコんで良いのか判らない……!!


「ま、まぁ、女装した課長は、どこからどう見ても女性にしか見えないですしね?」


しかも、その辺の女性より綺麗だったし。女装してなくてもこの人、無駄に綺麗だし。


「――という経緯があって、姉に頭が上がらない私としては、(はなは)だ不本意ではあるが、以来、年に数える程度だが頼まれてヘルプをしている、というわけだ」


見た目はいくら女性でも、喋るとさすがに声で男だとバレるため、口がきけないことにして筆談で言葉を交えているのだとか。


それでも、一目見られるだけでも構わないと、若宮課長目当てに通ってくる人もいるらしく、相手によってはお姉さんも断りきれず、課長が呼ばれるらしい。


それにしても、この若宮課長が頭が上がらないだなんて、一体、どんだけ恐ろしいお姉さんなんだろう……。


あるいは、どんだけ大きな弱みを握られているというのか――あっ、それだ!


それこそ、カムアウトしていない課長にとっては、ゲイという性的指向をトップシークレットとして握られているのでは!?


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