恋愛境界線
リビングに入ってきた課長にギクリとしながらも、表面上はにこやかな笑みを浮かべる。
「や、何でもないですよ」と答えながら、後ろ手にケージをソファの横へと素早く隠した。
「何でもないわけがないだろう。何だこれは……」
さすがの若宮課長も、目の前のちょっとした惨状に目を瞠っている。
「これもアレか。暇だったからちょっとビックリさせようっていう、そういう趣旨のアレか?」
「ち、違います!これは、」
これは、全てハムがやったことです。記憶にございません。私の与り知らぬことです。
駄目だ……!そんなことを口にしても、政治家の答弁の様な胡散臭さしか纏えない。
しかも、課長が嫌っているハムを部屋から出したことがバレてしまう。
それどころか、現在、犯人――いや、犯鼠はケージを脱出し、その辺をウロついている物騒な状況なわけで。
ケージから出したら、即刻ハムをベランダから放り出す、とまで言っていた課長だ。
ハムの為にも、ここは私が罪を被るしかない。