恋愛境界線
部屋の中には入らず、開けたドアの手前から若宮課長の寝室を見渡す。
始まりは、あのベッドからだった。
起きたら下着姿で、隣には課長が寝ていて。
『まさかとは思うけど、昨日のこと覚えてないとか言うんじゃないだろうな?』
あの時の若宮課長の姿が、今でもはっきりと脳裏に浮かぶ。
本当に、人生は上り坂、下り坂――まさか、だ。
まさか、こんなに若宮課長のことを好きになるなんて、あの時は想像すら出来なかったのに。
若宮課長が、酔った私を放っておいてくれたら。
あるいは、私が若宮課長に服を借りなかったら。
若宮課長の女装姿なんて見なければ。
ここに住まわせて欲しいなんて頼まなければ。
──そうしたら、こんなに好きになることはなかったんだろうか。
ただの上司と部下のまま、それ以上の感情は抱くことなく、いられたのだろうか。