恋愛境界線

「本当にすみませんでした!」と謝った私の頭上からは、課長のため息が盛大に降り注いだ。


「指示を聞き間違うという初歩的なミスをするなんて、(たる)んでると言わざるを得ない」


頭を下げたままの姿勢で僅かに視線だけを上げれば、視界には課長の手元が映し出された。


「もしかしたら、緒方君と一緒に暮らし始めたことで、君は少し浮かれているんじゃないかと、そう思ったから訊いたんだが……。勿論、それ自体は問題じゃない。仕事に身を入れてくれれば良いだけの話で」


君が答えたくないなであれば、別に答える必要はない――そう言って、既に空になっていた紙コップを片手でくしゃりと握り潰した。


若宮課長の言葉に、紙コップの白さと同じ様に頭の中が一瞬真っ白になる。


だけど次の瞬間、カッと自分の頬に朱が走るのが判った。


今しがた、課長の前でこんな姿を晒す自分を恥ずかしいと感じたけれど、今はそれの比じゃない。


惨めだとか悔しいだとか、この感情をどう表現していいのか、どう表現するのが適切なのか判らないけれど、私の犯したミスを課長はそんな風に思っていたなんて――と思ったら、屈辱的な気持ちで視界が真っ赤に染まった。



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