恋愛境界線
課長が去った後も振り向くことは出来ず、背を向けたままその場に立ち尽くす。
「……きつ、」
滲みそうになる涙の代わりに、ぽつりと言葉を落とした。
若宮課長の物言いがキツイなんていつものこと。こんなことでイチイチ落ち込んでたらやっていけない。
そうやって自分を奮い立たせて顔を上げると、目と鼻の先にある喫煙室付近に立っていた深山さんと目が合った。
いつから居たのか全く気付かなかったけれど、もしかして課長とのやり取りを見られていたのだろうか。
こちらの気まずさが伝わったのか、向こうもどこか気まずそうに会釈してきた。
「お疲れさまです。あー…っと、深山さんは、煙草休憩ですか?」
深山さんは、「いえ、煙草は喫わないんでここに用はないんですけど」と言いながら、こっちへやって来た。
「さっきまで若宮さんと仕事のことで一緒だったんですが、一つ確認し忘れたことを思い出して」
引き返してきたけど遅かったみたいです――と言いながら、深山さんは財布を取り出し、自販機に百円玉を投入した。