恋愛境界線

いただきます、とご飯に手を付けたものの、二人の前で黙々食べるのも気が引けて、「お二人の生姜焼き定食、美味しそうですね」なんて、当たり障りのない会話を持ちかけるべきか迷う。


だけど、以前この手の会話を若宮課長に持ちかけた際に、デッドボールを投げ返された思い出が蘇った。


今回だって、「そんなことを言うくらいなら、君もこれを頼めば良かったじゃないか」と言われて終わりそうな気がする。


少しだけ捻って、「深山さんもよく社食を利用するんですか?」という質問を繰り出した。


「大抵、外か弁当だけど、たまに利用してるよ。芹沢さんは?」


「私ですか?」


課長、これが会話のキャッチボールというものですよ。


そんな気持ちでいたら、課長が横から口を挟んできた。


「私ですか?って、ここには君以外に“芹沢さん”はいないだろう」


出た。返事を考えるまでの間の繋ぎとして発した言葉なのに、これだ……。


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