恋愛境界線
社名にもなっている《ラヴィサン化粧品》のラヴィサンという言葉は、フランス語で《うっとりするような》とか、《美しい》とか、《魅了する》といった意味がある。
そんな名前のついた会社で私たちのする仕事は、化粧品を開発・販売し、世の中に提供していくことだけれど、根本にあるのは、世の中の美しくありたいと願う女性たちの手助けになりたい、という思いだ。
課長自身はそこまで思っていなかったとしても、女性を嫌う様な人が就きたいと思う仕事ではないはず。
だから、若宮課長がこの仕事に就いていることが不思議といえば、不思議だった。
「──印象的だったんだ。普段は化粧気のない母が、特別な時にだけ父にプレゼントされた口紅を幸せそうに引く姿が」
そして、そのプレゼントされた口紅というのが我が社のブランドだった、というエピソードを話してくれる若宮課長を
「あんな性格だと知っている姉のことさえ、化粧をした時は素直に美しいと思えるし、そんな風に思わせる化粧品をプロデュースすることは、私にとって十分にやり甲斐のある仕事だ」
恥じらうことなくそう言い切る若宮課長を、改めて格好良いと思ってしまった――。