恋愛境界線
課長の嫌味に、今すぐ境界線を越えて足で蹴りたくなるのを堪え、ベッドの端で丸くなる。
そんな私に、「電気を消すよ」と課長が告げた後は、視界があっという間に真っ暗になった。
それだけで課長との距離感が曖昧になって、ベッドがものすごく広くも、狭くも感じられる。
真っ暗だから、課長の方を向いたって顔が見えるわけじゃない。
だから平気と、寝返りを打って顔を課長の方に向けてみる。
「……若宮課長、寝ました?」
「今寝ようとしているところだ。いちいちそんなことを訊いてくるなんて、君は子供か」
愛想の欠片もないその返事に、思わず笑いが込み上げる。
こんな幸せな夜は、きっと今夜が最後だ。
心臓が煩くて、少しだけ切なくて、だけどこのドキドキも胸の痛みすらも、全てが愛おしい。
寝ちゃうのが勿体ないくらいに、幸せな夜――。
「課長、おやすみなさい」と囁いた私に、「おやすみ」と返ってきた言葉は、どこまでも穏やかだった。