恋愛境界線
「別に……、渚に遠慮してるとか、そんなんじゃなくて。私と課長じゃ、そういう関係にはなれないよ」
私の言葉に、渚がムッとした様に「なんで?」とツッコんでくる。
「だって、上司と部下だし。それ以前に、若宮課長には支倉さんがいるし」
「仕事を離れれば男と女だし、支倉さんのことだって、本人に聞いたわけじゃないんだろ?」
「そうだけど、でも……」
「そういう関係になれないって言うなら、何で若宮さんへの気持ちを引き摺ってんだよ」
「引き摺ってなんか……。それに、一緒の職場だから、嫌でも毎日顔合わせるし」
仕方ないじゃない、とどこまでも言い訳がましい言葉を並べる私に、自覚させようとしてなのか、渚が右手で私の額をペチッと叩いた。
「そうじゃなくて、気持ちにいつまでも整理がつかないのは、遥がまだ一度も正面からぶつかってないからだろ」
全然痛くはないのに、つい反射的に「痛っ!」と声を上げてしまう。
渚の言うことは的を射ていたから、額よりも胸に痛かった。