恋愛境界線
遠慮なくごくごく音を立てて飲むと、冷たくてほろ苦い液体が乾いた喉を潤してくれる。
「はぁ、美味しーい。初めて飲んだ時はそう思えなくて、皆が美味しそうに飲んでいるのが不思議だったんですけど」
初めてビールを飲んだのは大学生の時、サークルのコンパの席で、だった。
苦いだけで美味しいとは思えなかったけれど、大学のああいう席では大抵、皆がまず初めに頼むのはビールで、最初の頃は嫌々ながらも付き合いで飲んでいた。
それがいつの間にか普通に飲める様になっていて、気付いた時には美味しいと感じるまでになっていた。それがいつだったのかは、もう曖昧だけど。
「甘味や塩味の様に、本能的に備わっている嗜好と違って、苦味は後天的に覚えるものだっていうからね」
「あぁ、聞いたことがある気がします。酸味や辛味もそうですよね?」
若宮課長が冷蔵庫から出してきたオリーブのオイル漬けに手を伸ばす。これもお酒を飲むようになってから知った味だ。
「そうだって言うね。私の場合は、コーヒーや酢の物がそうだった」
そう言うと、若宮課長は琥珀色の液体を一口、美味しそうにこくりと嚥下した。