恋愛境界線

プシュ、と小気味好い音を立てて開いた缶の中身を、課長は二つのグラスに注いで行く。


私だったら缶から直接飲むのに、この人はオンオフ関係なく、本当にマメだと思う。


若宮課長と付き合ったら、女としての立場というか、自信を失くしそうだ。


よっぽど女性として成ってない限り、私に限らず大抵の女性は自信を失くしそうで、課長と付き合うのは大変そうな気がする。


でもこの人の場合、今後付き合うとしたら異性よりも同性の可能性の方が高そうだし。


だとすれば、付き合う相手にも寄るだろうけど、これくらいマメでちょうど良いのかもしれない、なんて思った。


そんなことを考えている内にグラスを手渡され、それを受け取ると同時に「じゃあ、乾杯ー!」と課長に告げる。


「何に?」


「そう訊かれると困りますけど……。何でもいいです。ハムの可愛らしさにでも、太っ腹な課長にでも」


「はいはい。じゃあ、芹沢君の厚かましさにカンパイ」


「それって、乾杯することですか?」と訊ねたら、「“完敗”の方だよ」と返された。


え、ここでまさかの、オヤジギャグですか?


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