期間限定恋人ごっこ【完】番外編
『なんで付いてくんの』
「俺もこっち」
『じゃあ先に行けばいいじゃん』
「沙夜先輩と行きてーから」
嫌いになればいい、嫌いになって離れていけばいい。
お願いだから私から離れていって。
それでも誠人は先に行く様子はなくて、まだ私の隣を歩いてる。
私が速歩きをすれば速く歩くし、遅く歩けば、遅く歩く。
学校に着くまで付いてきた彼とは下駄箱で別れた、と言っても私は彼を無視して教室に向かった。
誠人が私を想って裏で動いていたのに、私はそれを知らず…知ろうとせず誠人を傷つけていたことを分かっていなかった。
「あんた今日どうしたの?」
休み時間、ユカがそう訊いてきて答えにはまった?
「今朝ラブラブじゃなかったじゃん」
『普通、だよ…うん』
ギコちなく答えてしまい、明らかに何かあったことを自らばら撒いてしまいユカはさらに問いただしてきたため、これはもう自白しないといけないと思った。
めいいっぱい、酸素を肺に取り入れる。
肺の中に入りUターンをして二酸化炭素になって吐き出されていく。
『昨日、キスされた』
「え?条件は?」
『だから別れた』
「でも今日一緒に…」
『うん。朝迎えに来て…それに俺との付き合いは1週間だからって』
「ふーん。じゃあ最後まで付き合ってあげたらいいじゃん」
ユカは興味なさそうに返事をしてそう言った。
最後までって…条件を破られたのに。
「あんたの条件なんて今はいいわけ」
『は?』
ユカの奴何言ってんの?
私の意見は丸ごと無視?
どうでもいいって失礼にも程がある。
「いじめ、今日も起こってないでしょ?」
『…うん』
「誰のおかげ?」
え…だってそれは、
『魑櫻でしょ?』
「違ーう」
どういうこと?意味が分からない。
ユカの言いたいことは何?
「魑櫻が見ず知らずの女を助けると思う?」
ていうか知らない奴なんて私でも助けないわよ、とユカは言った。
それは思わないので首を横に振ると「でしょー!」と指差してきて、人に指差すなと思った。
「それ、北条が関係してると思う」
なぜ?と問うと誠人はヤンチャしまくってたからもしかすると族と関係してるかもでしょ、と納得できるような言葉を並べてくれた。
思えば確かにそうかもしれない。
喧嘩してるのみたいなことないけど、強そうだもん。
「ねぇ石橋」
と私が考えてる間にユカは隣にいた男子に声を掛けていた。
誠人が中学時代どれだけ強かったのかを問うと「あぁ、アイツ」とけっこう知ってるような唇で話し始めた。