廓の華


「こっちを向いて」


 思わず、動揺してまばたきをしてしまった。


「久遠さまがひいてくださるのですか?」

「なんだか、してみたくなった。いいか?」


 断る理由もなく、身を任せる。水を含んだ筆が玉虫色の面を撫でると、混じり気のない赤へと変わった。まるで魔術だ。

 その時、長い指が頬に添えられる。人とは思えないひんやりとした感触に、神経が集まった。

 触られたの、初めて。

 美しい紅よりも、そんな考えが頭の中を支配して、緊張で胸が張り裂けそうになる。触れ合った肌が妙に熱くて、落ち着こうと思ってもどうにもならない。

 頬に手を添えられただけなんて、いつもの仕事に比べたら子ども騙しのようなものなのに。どうしてこんなに意識してしまうのだろう。

 彼は明確な意図があって、あえて私に触れないのだと思っていたし、もしかして女嫌いなのかもしれないとまで疑っていた。

 だけど、こんな簡単に距離を縮められると、こちらばかり翻弄されている気分になる。

 繊細な手つきで、唇を筆が撫でた。真剣な眼差しに射抜かれる。

 ときおり優しく顎を持ち上げられ、そのたびに心臓が早鐘を打った。呼吸もうまくできない。

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