廓の華
彼がなにを見て、どんな世界で生きてきたのか私は知らないけれど、この座敷で過ごしてきた時間は、遊女と客とは思えないほど健全で穏やかなもので、幸せだった。
都合の良い部分しか見せていないのだとしても、貴方と会える時間が楽しくて、いつのまにか仕事だということを忘れるほどだ。
ひとりのお客に、ここまで入れ込んだ経験はない。
繋がれた手と逆の手が、頬に触れた。
そのまま流れるように後頭部にまわり、うなじを軽く引き寄せられる。
優しく唇が重なった。
触れるだけの、初めてのような口づけだ。
しかし、余韻に頭がぼうっとした瞬間、唇を甘噛みされる。驚いて口を開けると、柔らかな舌が差し込まれた。
わずかにうなじを支える久遠さまの指に力が込められ、じゃれるように吸われる。
最初の可愛らしい触れ合いが嘘のように深く貪られ、加減されているのが伝わるのに息が上がっていく。
次の瞬間、腰に甘い痺れが走り、がくんと仰向けに力が抜けた。
久遠さまは、とっさに繋いだ手を引いて抱きとめる。