廓の華
「すまない。息ができなかったか?」
混乱の中、小さく首を横に振る。
口づけだけで、腰が抜けたなんて言えない。
久遠さまはどんな風に女性に触れるのだろうと考えたこともあったが、想像よりもずっと気持ち良かった。
舌を甘く絡め、こちらの反応をみながら責め立てられたものの、強引とは程遠い。だが、たしかにそこには熱があり、気を抜けば全てを喰らい尽くされそうな色欲も見え隠れしていた。
それでも、背中を撫でる手が優しくて、心が震える。
顔を上げると、濡れた漆黒の瞳と視線が合った。締め付けられるほど胸が痛い。
「君の知人に訂正しておいてくれ。俺はわりと欲に忠実な男だから、人より表に出さないようにしているだけだ。わかったか?」
「は、はい」
くらくらするほど色気を帯びた声が耳をくすぐる。
初めてみせた男の一面は、心臓に悪い。
楽しそうに酒を嗜んで、見たことのない土産や外の世界の話にはしゃぐ私を穏やかな目で見つめる彼だけで十分だ。
そうでなければ、花魁ではいられなくなる。
私は悟っていた。
もしも、私が彼に本気になったとしても、彼は私をさらってくれない。
案の定、それ以上彼は手を出そうとせず、一線を越えぬまま朝を迎えた。