王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
「五十嵐、加藤さんに救われたんですね……」
「あ?」
 だめだ。止まらない。
 こいつとは関わらないと決めたのに。
「どこが? なにが? おまえ、おれをあいつに押しつけて! おれをどんな気分にさせたのか、わかってんのかっ」
 歩道の真ん中で立ち止まるおれたちの横を、迷惑げに過ぎていく制服の群。
 遅刻ギリギリの電車で来ているろくでなしのくせに。
 ちょっと進路をふさがれたくらいで、えらそうに迷惑ぶってんじゃねえ。
「加藤さん……」
 町田の顔が苦し気にゆがむ。
 情けなさに舌打ちしながら、それでもおれの手は町田を離す。
 いやらしい、卑屈な、ことなかれ主義。
 町田は、きびすを返したおれの腕をつかんだ。
 離せ!
「加藤さん! どうしてあなたが染まるんですか? あいつがなにに苦しんでたかは知らないけど。あいつ、加藤さんのおかげで最悪の状態からは抜けました。あとは……、あとは、あいつの問題ですよ?」
 はぁあああ?
 聞いちまったおれは? 
 おれの問題は?
「おまえになにが見えんのか! どんだけ神様なのか! おれは知りたくもないけどなっ」
「…………」
「おれは聞いちまった! そんで、なんもできねえ自分にむかついた!」
「…………」
「今のおれはどう見えるよ。あ? こんなにむかついてるのに、おまえをなぐることもできねえ! なんもできねえくせに、あいつに聞いちまったことも忘れられねえ!」
「…………」
「おまえは、いいよな。おれをフリスビーかなんかみたいに飛ばして、もう平気です、もう終わりました、ありがとう? なにが終わったよ? あのバカ娘の問題はなにも解決してねえし! おれのむかつきも収まってねえ」
「…………」
「この世にぶっ倒れるほどイヤなもんがあるならな! おまえが死んどけっ」
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