王女ちゃんの執事1『で・eye』加藤さん、きれいです。
 吐き捨てて歩き出したおれの腕を、へし折りそうな力で町田が離さない。
「だ…から、てめ。力で人をどうこうし」「思いました!」
 仁王立ちでおれをにらむ町田の目は濡れていた。
「何度も何度も――思いましたっ」
 袖をめくってグイッと突きだされた左腕の手首には、まがまがしい傷がついていた。
「でも、()けないんです! もどされちゃうんです!」
「…………」
「お…れの言うことなんて、誰も信じてくれなかった。おれは見えるのに。わかるのに。気味悪がられてハブかれて、つら…かった」
「…………」
「だから死んじゃえって! 川に飛びこんでみた。家のベランダから落ちてみた。自転車で神社の階段から飛んでみた。でも、おれはいつだって病院で目が覚めた!」
「…………」
「だから、うつむいて。だから目をつぶって。見ないですむようにしてきたのに、どんどん見えるようになるんです! わかる…ん、です……」
 最後はフェードアウトして消えた震える声を、おれは自分が恐ろしくなるような平静さで聞いていた。
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