皇帝陛下、今宵あなたを殺害いたします―復讐するのに溺愛しないでください―【コミカライズ原作】
とんだ、結婚式になってしまった。それも、最後まで終えていないという、前代未聞ぶり。
陣痛の一旦引いた私は、医務室へ急ぐルイナードに猛抗議をした。
「もう⋯⋯。だから式典は産後にした方がいいと言ったのよ⋯⋯」
微かに息を弾ませたルイナードは、ちらりとこちらに視線を配る。
「仕方ない。早くお前を皇妃にしたかった」
涼しい顔して甘いセリフを言い退けるものだから。不覚にもときめいて、言葉に詰まってしまった。
「⋯⋯だからって⋯⋯もうこれ中止じゃない」
「ハリスも許可してくれたのを、共に聞いていただろう」
「それはルイナー⋯⋯いててて」
揺れる腕の中で、再びやってきた陣痛に身を縮まこませる。
「大丈夫か⋯⋯?!」
「――もう⋯⋯。痛いに決まってるわよぉ。医務室まで急いで!」
そんな私たちのやり取りに、ハリス先生がクスクス笑っていることにも気づかず、ルイナードは私に急かされるまま、全速力で廊下を駆け抜けてくれた。
結局、式典を最後まで行う事は叶わなかったけれども、これはこれで、拗れにこじれた、私たちらしい式典なのかもしれない。なんとなく、そう思えたのだった。
そして、この前代未聞の式典が、現在でも密かに語り継がれているだなんて、私たちは知らない。
『ルイナード陛下は、皇妃に骨抜きのようだ』
――そう。
知らないほうがいいことも、あるわよね?