秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「こちらにいらしたんですか」

 静かな階段に声が響き、上の階から先ほど相良さんと一緒にいた男性がやってくる。

 私は慌てて相良さんの手から自分の手を引き抜いた。

 私たちのところへたどり着いた男性が、なにかを考えるように私と相良さんを交互に見る。そして、困ったような面持ちで話し出した。

「……副社長。お話し中に申し訳ございません。しかし、そろそろ社を出ませんと先方をお待たせしてしまいます」

 副社長?

 予想もしていなかった言葉に、私は思わず相良さんを見つめる。一瞬眉根を寄せた相良さんは、ふっと小さく息をついてから口を開いた。

「……わかった」

 とりあえずここから離れていく? 私がそう胸を撫で下ろしたのもつかの間、相良さんの顔がこちらに迫った。

「腕、いきなり掴んでごめん。どうしても君と話がしたいんだ。また会いに行くから。じゃあ」

 そう言った相良さんは、いささか名残惜しそうに私を横目に見てから階段を下りていく。男性は私に一礼してからそのあとを追っていた。

 一気に緊張から解放された私は、わずかに震える手を握りしめ、深く息を吸う。
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