秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
『受け取れません』

 私は机の上で封筒を押し返した。

『この子は私がひとりで育てます。父親が誰かも他言しません。……相良さんにも。それなら問題ないですよね』

『……はい。しかしそれなら、なおのこと受け取られたほうがよろしいのではないでしょうか』

『必要ありません』

 私は間髪を容れず放った。

 どうせ話すつもりはなかった。相良さんが相和グループの跡取りと聞いてなおさらその思いは強くなった。

 大切な尊い命が、相良さんや彼の家の足を引っ張るために利用されるかもしれないなんて耐えられなかったからだ。

 終始凍りついたように無表情だった神田さんの顔は、私の記憶の中に深く刻み込まれていて今もときどき脳裏に浮かぶ。

 この子はなにがあっても私が守る。

 神田さんと別れて家に帰ったあと、そう固く誓い今日まで恵麻を守ってきた。念のため母と住んでいたアパートから今のハイツに引っ越しもして、もう相良さんや相和グループと関わりもないと思っていたのに、それがまさか……。
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