秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない

 ――大和side

 天音をバスルームに送り出したあと、俺は前かがみにソファーに座り、太ももに両肘をついて顔の前で手を組む。

 先ほどまでの自分の必死さを思い返し、その情けなさに思わず「はっ」と笑いが込み上げた。

 君は知らないだろう。昨日会社で君を見つけた俺が、いったいどれだけ驚いたのか。

 夢でも見ているのかと思った。ずっと会いたくて、あの夜のあとも捜したのに、結局見つからなかった君が再び目の前に現れたんだ。

 強引だったのはわかっている。困らせてしまっているのも。弱みにつけこむようなことをして、最低だな。そう思うのに、それでも手放せなかった。

 君をそばに置いておきたい。また会えなくなって後悔したくなかった。だから今すぐに気持ちは伝えられない。

 好きだと言えば、君は絶対に俺のもとから逃げてしまうだろうから。
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