秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
「あ、私が」

 慌てて駆け寄るけれど、彼は「大丈夫。君も座って」と恵麻の席の隣にあるダイニングチェアを引いてくれた。

「……ありがとうございます」

 困惑しつつも、私は大人しく座る。隣へ顔を向けると、恵麻が座っていたのはちゃんとした子供用のダイニングチェアだった。

「甥っ子がうちに来たときに使っていたやつなんだ。置いておいてよかったよ」

 まじまじと眺めていた私に、相良さんが言う。

 わざわざ準備してくれたんだ。この朝食だってそう。相良さんは出会ってからずっと、なんでもないように優しかった。

 自身も席について「いただきます」と告げる彼のあとに、恵麻も「いただきます」と手を合わせる。

 ふたりの視線がいっせいに私へとそそがれた。

「いただきます……」

 私もつぶやくと、相良さんは満足げに微笑んで食事を始める。待ちきれない様子の恵麻に急かされ、私も手早くお子様ランチのおかずたちをフォークで小さくカットしていく。
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