秘密の子育てだったのに、極上御曹司の溺愛から逃れられない
 この写真の女の子が履いているベビーシューズ、恵麻も持っていたな。以前いた職場のパートさんが恵麻の誕生日に贈ってくれて。

 写真を横目に、懐かしい記憶を思い返す。

 私は絨毯が敷いてある長い廊下を早足に進み、【総務部】のプレートがついたドアの前でようやく立ち止まった。軽く深呼吸をしてから一気にドアを押し開ける。

「おはようございます」

 私の声に、すでに出社していた数人の社員がこちらに視線をそそぐ。全員が挨拶を返してくれる中、ひとりの女性社員が駆け寄ってくる。

「おはよう、花里(はなざと)さん」

 私の名前を呼ぶ、前下がりボブがよく似合う、目鼻立ちがハッキリとした綺麗な女性。

 面接合格後、一度契約や保育所の手続きをしに私がここを訪れたときに紹介された入社八年目の先輩社員、栗林(くりばやし)さんだ。
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