i -アイ-
第二章___狼煙

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『犬であることは間違いない』



慎さんは、明確なことは言わなかった。

けれど、名雲碧を潰すことがREIGNや亮さん、御庄の人間を守る基本条件であることは分かった。


名雲碧がどんな人物で、どんな経緯で今の名雲碧になったのか。

それは教えてはもらえなかった。


ただ、当時、榛人が1番仲が良かったのが名雲碧であることは間違いなかった。

榛人は人の心に聡い。

だから、あのころの名雲碧は本当に良い奴だった、と。

あの頃の自分を思い出して、あんなに悲しそうな目であたしを見たんだろうか。


そのあとの無機質な表情が、本当の今のあの人の顔なのか。


……蓮は、なんであたしの誕生日を聞いて泣いたんだろう。


色んな謎が増えていく。


机にガンッと頭をぶつけようとしたら、手で阻まれた。



「ビビったー…お前ついに自暴自棄になったか」


あたしの額に手を当てたのは、滝谷。



「……なんで睨むんだよ」



額から目に手をずらしてあたしの視界を邪魔する。


あたしがクスクス笑えば、手を離して、



「中庭行くぞ」



急にそう言って立ち上がった。



「中庭?」



とりあえず着いていく。


普段昼休みは学食で食事を済ませて話しているか、体育館でバスケをするか、グラウンドでサッカーするか。


中庭に行くのは初めてかもしれない。



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