i -アイ-




「あはは、藍ちゃんもティッシュいるー?」


そう言って差し出されたティッシュを受け取ろうとした時、バッと腕を掴まれてポスッと槙野先生に抱きしめられた。


「元気でよかった。娘ちゃんがいるのは知ってたからさ。俺感動してるんだー」



震える語尾が、あたしの涙腺を刺激する。



落ち着いてから、あたしから離れた槙野先生はあたしの頭を撫でた。



「高校卒業して藝大行って、今はここの非常勤講師と大学准教授とアーティスト活動してるんだ。……未だに俺自身が俺の絵の何がいいのか分からないんだけどね。最初に俺の絵を認めてくれたやつは、早々に居なくなるしさー?酷いよね」



「じゃあ、今度見せてください。先生の絵」


あたしの言葉に、キョトンとする先生。


「榛人に似てるんで代わりに」



「あはは、藍ちゃんは優しいなぁ。ダメだよ、榛人は俺の絵を見ても、好きだとしか言わなかったから。何が好きなのか言わないと分からないのに」



「変なところ、照れ臭くなって言いませんからね、榛人は」



「そうそう。まりあと付き合い始めた時も、どこが好き?って聞いてもはぐらかしてばっかりだった。あんなに表向き軽そうなのにさ」



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