その夢をどうしても叶えたくて
私はリスカをすることに快楽を覚えるようになり、毎日するようになった。傷痕が残らないように、浅く切っていた。
私はもうこの現実に耐えられなくなった。このまま死んでしまおうといつだって思っている。
ある日のことだった。私がまた一人で泣いていた時だった。なぜか後ろからそよ風が吹いてきた。
後ろを振り向くと、黒いオーラーをまとった青年が居た。
彼は辺りを見渡して首を傾げている。そして、私に向かって口をパクパクと動かしている。すると、彼は眉間に皺を寄せた。
彼は私の机に置いてあるノートに書き出した。
『声が出なくてびっくりした。ここは君の部屋?』
「そうだけど……アナタは誰?」
私がそう聞くと、彼は私の部屋に飾られたなーせくんのポスターに目線を向けて難しい顔をした。オタクだと思われたのか。
私は彼の顔を見た。彼はとても優しい笑顔を向けて、私の頭を撫でた。それがなぜか嬉しくて涙が出た。
ああ、そっか。私はこんな優しさに触れたかったんだろうな。ずっと一人だったから寂しかったんだろうな。
彼は私が泣いているのに驚いて、すごく戸惑っている様子だった。
「嬉しかっただけ。気にしないで」
彼はホッとして、嬉しそうな笑顔を見せた。そして、またノートに文字を書く。
『スマホ貸してくれない?ツイッターをログインしたい』
「えっ……まぁ、いいけど」
スマホのパスワードを入力して、彼に渡した。彼はなぜかニヤリと笑っていた。
しばらくすると、彼は満面の笑みでスマホを返してきた。画面はツイッターのままだったが、少し違和感があった。
「えっ、えぇ!?」
プロフィールや設定を開く際に、現在使ってるアカウントのアイコンがあって、その隣に少し小さく自分の他のアカウントのアイコンが並んでいる。
その場所に、なーせくんの公式とサブアカウントが自分の裏垢の隣に並んでいた。
「まさか……」
本物のはずではない。とんでもないハッカーかもしれない。
そして、彼は私のスマホを取ってまた返してきた。
私宛のダイレクトメッセージが開いていた。
『本物だよ。なーせだよ』
それが書かれているのは、自分が送信した側である。
彼の顔を見ると、とても可愛らしい満面の笑みを浮かべていた。
「えっと……なーせくん?」
試しに呼んでみると、彼は笑顔でうなづいた。
血の気がゾワッと引いて、私は意識を手放してしまった。