その夢をどうしても叶えたくて
何か気配がして先生と振り返ると、なーせくんが居た。しかも、頬に鱗っぽい物が浮き出ている。
「なーせくん!?どうしてここにいるの!」
しかも、頬には変な鱗みたいなのが浮き出ている。私は彼の頬に触れた。
「しかも、どうしたのこれ?あっ……先生、紙とペン下さい!」
私は彼が話せないことを思い出し、そう聞いた後に先生に紙とペンを用意させた。もらってすぐに彼は急いで書き出した。
『突然体中が痛くなって倒れそうになってた。俺と似た境遇の男の子が居て、その子に色々と教えてもらってた。もしかしたら、奏が危ない状態かもって思って急いで駆け付けたんだ』
そんな……私の心境によってなーせくんも変化していくってことなの?
結局私の存在がなーせくんを苦しめている。私のせいで、なーせくんが……本当に申し訳ない。私が消えちゃえば楽なのに。
すると、なーせくんは座り込んだ。全身を痛がっている様子だった。
「アナタ、大丈夫?休んでいく?」
保健室の先生はこの意味分からない状況に対して、すぐになーせくんに近寄って心配している。
なーせくんは震える手で書き出した。
『俺に相談してくれない?頼りにならないかもしれないけど、俺は奏に苦しんでほしくない。俺は苦しんでいいけど、奏には苦しんでほしくないんだ。だから、話してくれないか?』
痛みが襲ってきているからなのか、涙目になって訴えてくる。
保健室の先生が私の肩に手を乗せた。
「彼のために話した方がいいんじゃないかしら?」
私は唾を飲んだ。なーせくんを苦しめたくないし、話すしかない。
「私は友達なんて居ないし、いつも一人で辛い。それだけじゃない。成績もボロボロ……挙句の果てには先生に現実を見ろと怒られた」
私の夢を話したところで、誰もいいよだなんて言ってくれない。生まれて来なければ楽だったのに。
またなーせくんが苦しみ始めた。体のどこかが痛くなったのだろうか。
「……私の夢は誰かの心に響くような歌を歌うこと。だから、なーせくん達に憧れを抱いていた。歌い手なら……と思ったけど、よく考えてみたら狭き門なんだよね?私の夢は誰にも応援されない。だから、私は……」
――夢を捨てるの。
「こうするしか無かった。そうじゃないと現実は許さない。だけど、そう決断したら何も活力が湧かなくなった。毎日毎日死にたい消えたいしか考えられなくなった」
ずっと私の脳みその中で幸せそうな妄想が繰り広げられている。私も妄想世界の私になれたらどれだけ幸せなのだろうか。
「ステージに立ってみたくて、自らバンドを結成させようとしたけど、自分達でやりたいからって言われて追い出された。何をしても、私は夢を叶えられない。だから、捨てるしか無い。普通の社会人に成るしかないの!」
だいたい良い感じの大学に入学して、だいたい良い感じの会社に就いて行けば充分平和な人生だ。それでいい、私はそれでいいの。夢を追うからこそ心が壊れるんだ。
『歌い手になろう。俺たちが全力でプロデュースするよ!奏の夢絶対に叶えてやる!』
なーせくんが見せつけてきた紙にはこう書いてあった。私はその言葉を見て涙を流した。
なーせくんは私を強く抱きしめた。嬉しくて涙が止まらなかった。これからも貴方を推し続けます。そして、夢を叶えて見せます。