契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「乗り合わせていた助産師です。二十六歳女性、初産、妊娠三十九週。子宮口の開きは三、四センチ。陣痛間隔は約二十分程度です。一時間ほど前に機内で陣痛が始まりました」
状況を説明し、やっとストレッチャーに横たわった女性に近寄る。
「もう大丈夫だから、安心して。あとは、ママと赤ちゃんのペースで、いいお産を」
寄り添うご主人にも目を向け、「支えてあげてください」と笑顔を向ける。
救急隊員に「お願いします」と頭を下げると、横たわった女性が「あのっ」と声を上げた。
「ありがとう、ございました」
初めての妊娠出産、まさかの場所での陣痛で余裕なんてないはずなのに、律義にお礼の言葉なんか口にしてくれる女性に胸がいっぱいになる。
思わずぐっときてしまい、振り払うように横に首を振った。
「頑張って」
去っていくストレッチャーが見えなくなるまで見送る。
今になって、無意識に肩に大分力が入っていたことに気が付いた。