契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「急病かね……?」
「佑華、もし誰もいなかったら名乗り出るの?」
「んー……私は助産師だし、看護師で役に立ちそうなことなら名乗り出るかもだけど、ひとりくらい医者乗ってるんじゃないかな」
ひそひそとそんなことを言い合っていた時──。
「すみません! どなたか、医者の方いないですか!?」
私たちの座る座席より十列ほど前の席で、今度は男性がひとり立ち上がり乗客に呼びかけた。
訴えるような緊迫した様子に、思わず背を伸ばし様子を窺う。
「妻が、妊娠している妻が、もしかしたら生まれるかもしれないんです!」
嘘、陣痛……!?
心の中でそう思った時には、すでに無意識に座席を立ち上がっていた。
「佑華!」
「ちょっと行く」
「う、うん」
亜紗美がさっと脚を引っ込め、私を通路へと送り出す。
呼びかけていた男性の座席まで足早に近づくと、客室乗務員二名が集まり、男性のとなりの席には臨月と思われる女性がシートを倒して横たわっていた。
苦しそうに体を横に向け、おなかを抱えるようにしている。
突如やってきた私に、その場にいるすべての目が集まった。