契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


「助産師です。診させていただいてもよろしいでしょうか?」


 助産師だと名乗り出てきた私に、客室乗務員がホッとしたような表情を見せる。

 そしてすぐに「何を用意しましょう?」と冷静に指示を仰いだ。


「ありがとうございます。とりあえず、医療用の滅菌グローブなどあればありがたいです。それから、できれば端の席とか、人目から離せる場所に移動させてもらっても」


 こうして話している間にも、妊婦の女性は唸り声を上げ苦しそうに表情を歪めている。

 さっき声を上げたパートナーの男性は、苦しむ妻の姿に横でおろおろとしていた。


「東京の帝慶(ていけい)医科大学病院、産科に勤めています、助産師の宇佐美と申します。奥様は妊娠何週目ですか? 母子手帳お持ちでしたら確認させてください」

「は、はい!」


 男性は慌てた様子でバッグから母子手帳ケースを取り出し、「お願いします」と私へ手帳を差し出した。

 中を確認すると、女性は妊娠三十九週。

 予定日目前で、もういつ生まれても問題のない正期産に入っている。

 いつ産気づくかわからないこの時期に飛行機に乗って移動することは、私たちの立場からは決しておすすめしていない。

 冠婚葬祭だとか、よほどのことがあっての選択だったと察する。

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