契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
心の中で自分に何度も繰り返す。
落ち着け、大丈夫、いつも通りに。
一番不安なのは、お腹に赤ちゃんを抱えているママ。
目の前にいる私が少しでも動揺を見せれば、ママの不安を煽ることになる。
設備も道具も万全にはならない、機内という特殊な環境。
もちろん、数多くのお産に携わってきた私も、こんな場所でお産に携わった経験は今まで一度だってない。
だけれど、陣痛が進めば出産は待ったなしだ。
とにかく一番大切なことは、生まれてくる赤ちゃんを無事に取り上げること。
今この場でそれができるのは、どうやら私しかいない。
「赤ちゃんがどのくらい下がってきてるか、診させてもらってもいいですか?」
痛みが落ち着いているうちに、内診をして子宮口の開き具合を診ておきたい。
女性は「お願いします」と小さく頷き、横に向いていた体をゆっくりと仰向けにしてくれた。
用意してもらっていた毛布を女性の体にかけ、少し膝を立ててもらう。
「ゆっくり息を吐いて、力を抜いて……」
いつも慣れたことのようにやっている診察も、こんな場所で行うというだけでわずかに緊張する。
それでも手は覚えているもので、いざというときにでも診察ができる自分にホッと胸を撫でおろした。