契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


「──うん、まだ五センチも開いていないから、今すぐ生まれるということはなさそうですね」


 そう伝えると、ご主人のほうに一瞬安堵の表情が浮かぶ。

 後ろで控えている客室乗務員に、あとどれくらいで羽田空港に着くかを確認すると、あと三十分もしないうちに着陸態勢に入ると言った。


「すぐに病院に迎えるように、空港に救急搬送の要請をお願いします」


 恐らくこのままいけば機内での出産はないだろうと踏んで、到着後の受け入れ態勢の手配を万全にしてもらう。

 不安そうに私を見上げる女性に、腰を落として目線を合わせる。

 少しでも安心できるように、にこりと微笑んだ。


「今痛くなってるのは、まだ弱いけど陣痛の始まりだと思っていい。これからもっと間隔も狭まってきて、痛みももっと強くなってきたら本陣痛だから、今はなるべくリラックスして着陸を待ちましょう」

「あの……もっと、痛くなるんでしょうか?」


 やっとお腹のわが子に会えるという期待の反面、初めての出産は不安だらけ。

 陣痛に関しては、怖いと思う妊婦がほとんどだ。


「痛みは、人それぞれ感じ方も違うからどのくらい陣痛が痛いかは答えられないけど、でも、痛くて産めなかった人はいないから、大丈夫」


 そう伝えると、女性はじっと私の顔を見つめる。

 そして、小さく頷き「ありがとうございます」と微笑んだ。

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