ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 結構な数の親戚が集まっているらしい。ハルさんの実家はやはり広い屋敷なのだろう。   
 確かに電話の向こうからはざわざわした音がしている。


「あ、そうだ。デザイン案見ました」

『どうだった?』

「素敵でした。あのぼんやりとしたイメージがきちんと形になった感じで」

『良かった。もうほとんど夏怜ちゃんとの合作みたいなものだったから、夏怜ちゃんのイメージから外れてないか知りたくて』

「帰ってからでも良かったのに」

『一刻も早く見てもらって感想聞きたいと思って……という建前と、年明けの瞬間に夏怜ちゃんと話していたいなという本心のもと、今送りました』

「何となくそう言うだろうなと思いました」

『はは、バレてたか』


 彼は楽しそうに笑う。

 それから、このデザインをどうしたらさらに良くなるかということや、ここ数日何をしていたかということを話した。その最中に、ハルさんが「あ」と声を上げた。


『年、明けたみたいだね』

「本当だ。明けましておめでとうございます」

『おめでとうございます。今年もよろしくお願いします』

「こちらこそ」

『夏怜ちゃんは帰ってくるの4日の夕方だったかな?』

「はい」

『早く会いたいな』


 優しくささやかれたその声に、心臓がどきりと跳ねる。

 私も会いたい。そう答えようか悩んだその時に、部屋のドアがノックされ、兄さんの声がした。


「おーい夏怜!年越しそばできたってよ」

「あ、ごめん、すぐ行く」


 私はケータイのマイクの部分を押さえてドアの向こうの兄に返事をしてから、ハルさんに言う。


「すみません、兄さんに呼ばれたので切りますね」

『ん、了解。じゃあまたね』

「あの、ハルさん」


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