ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


 彼は私の手をとって、店のある方へ歩く。その店は想像よりも奥行のある、広い店だった。


「結婚指輪はあっちかな」


 話しかけてきた店員に見ているだけだと断りを入れたハルさんに手を引かれる。その途中で、彼は壁に設置されたチラシを指さした。


「夏怜ちゃん、これ見て」

「あ、これって」

「君と考えた、和風ジュエリー。もうすぐ店頭に並ぶよ」


 細かい麻の葉模様が施され、美しい宝石が埋め込まれた指輪の写真。思わずごくりと息をのんだ。


「すごい……」

「楽しみだね。売り始めたらまた見に来ようね」

「はい」

「で、こっちのショーケースが目的の結婚指輪。隣は婚約指輪だね」

「おお」


 あまり近くでまじまじと見ていると、また店員に声を掛けられそうなので、少しだけ距離を取って眺める。
 両親が持っていた指輪はかなりシンプルなものだったので、結婚指輪といえばそのイメージだったが、実際は実に種類豊富だった。うねったような形のもの、カットされた宝石のようにカクカクとしたもの、ずらりと宝石が埋め込まれているもの。色もシルバーだけではなく、ゴールドやピンクゴールド、ペアでそれぞれ色が異なるものもある。


「夏怜ちゃんはどれが綺麗だと思う?澪たちに勧めるときの参考に」

「えっと……。あ、この二つ重ねると文字ができるのとか素敵かも。色はシルバーが好きですね。好みはわからないけど、この細いやつとか澪さんに似合いそう」

「なるほど、これだね。ちなみに婚約指輪だったらどれが好き?」

「婚約指輪……えっと……」


 私は婚約指輪が並んでいる方に目を移す。まさかついでに婚約指輪まで買わせようとしているのだろうか。


< 141 / 144 >

この作品をシェア

pagetop