ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



「そうですね、やっぱりシンプルに少し大きめのダイヤモンドが付いているものですかね。あ、でも私はこの、ダイヤモンドの隣に小さな誕生石が付いてるやつが好きかも」

「これだね。あはは、やっぱり」

「え?」

「ううん何でもない。参考になったよ。じゃあ店の中軽く一周したら行こうか」


 何故か上機嫌な彼に背を押され、店の中をぐるりと一周してから外に出た。

 まだ時間はあるし、ゆっくり見ても良かったのに。少し名残惜しい気分で店の方を見ている私にハルさんが尋ねてきた。


「夏怜ちゃん、そのレストランまではどうやって行くの?」

「え?えっとそこのバス停からあと一時間後ぐらいに出るバスに乗って行きますけど……」

「まだ時間はあるね。じゃあさ、時間になるまであっちの公園に行かない?桜が有名なんだけど、咲き始めてるんじゃないかな。行ったことある?」

「聞いたことはありますけど行ったことはなかったかと」

「よし、じゃあ行こう」


 彼はまた私の手を握ってまた歩き出した。

 その公園の桜は本当に咲き始めといった具合で、満開には程遠いように思えた。だが、私はこの咲き始めの感じが結構好きだったりする。あと花見客がまだ少ないのもポイントが高い。

 立派な桜の木の並木道は、確かに見事だ。つぼみが膨らんでうっすら色づいているのも良い。


「やっぱりちらほら咲いてるね」


 桜の木がよく見渡せるベンチに座り、ハルさんが嬉しそうにする。そして、何かに気づいたらしく、「夏怜ちゃん、目瞑って手を出して」と言った。

 言われた通りにすると、手にふわりと何かが乗った。


「目、開けても良いよ」

「わ、桜の花びら」


 薄ピンクの可愛らしい花びらに小さく歓声を上げた。

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