ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
◇◆◇


「夏怜、寝不足か?」


 学部必修の授業が終わった後、少し遠くに座っていた長谷が私の席までやってきた。


「講義中何回もうとうとしてただろ」

「うん。昨日の夜ちょっと考え事してて」


 昨夜、澪さんの話を聞いた後に一つ思い出したことがあった。

 バイト中に話しかけてきたあの男性のことだ。思い返してみると、彼は『木坂家に仕えている』と言ってはいなかったか。

 ハルさんの元婚約者である木坂家の令嬢と、その家に仕えているという人に同じ日に会うなんて出来すぎている気がする。だけどあの男性はともかく、澪さんとぶつかったのは偶然だ。


「じゃあさ、今から気晴らしに今度こそゲーセン行こうぜ。この前行けなかったことだしよ」


 長谷は名案とばかりに目を輝かせて言う。ただ自分が遊びたいだけだろう。

 あまりそんな気分ではなかったけど、せっかく誘ってくれたので、私はうなずいて荷物をバッグにしまい、あくびを噛み殺しながら立ち上がった。長谷は色々と話しかけてくれているものの、今はその話が半分も耳に入ってこない。

 そしてゲームセンターに着いてからも寝不足のせいで今一つ集中できず、対戦したゲームは全て負けた。


「夏怜、もう帰るか?寝不足のとこ誘って悪かったな」

「ううん。こっちこそ何かごめん」

「俺は楽しかったからいいよ。あ、今日もクレープ食うか?」

「うん」

「じゃあ俺買ってくるわ。お前はそこで休んでろ」

「ありがとう。チョコバナナのやつお願い」

「了解」


 長谷の優しさに甘え、私は近くにあったベンチに腰を下ろした。口を押え大きくあくびをしたそのときだった。


「直島様」

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