ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
何故橋岡は自分の名を知ってるんだ、と長谷は眉をひそめる。
「好きなのでしょう?直島様のことを」
「……悪いかよ」
「いえ。ただ、それならあなたも晴仁様と直島様を別れさせたいという思いは同じではないかと思いまして」
長谷は大きく舌打ちして、淡々としゃべる橋岡から目を逸らした。
「直島様ご本人から話を聞く限り、メリットがあるとはおっしゃっていましたが、晴仁様に対して恋愛感情があるというわけではなさそうでしたね。今ならまだ間に合うでしょうが、行動を起こさないければ、いずれ手遅れになりますよ」
何なんだ、偉そうに。長谷は橋岡をぎっと睨む。
そんなことは、橋岡に言われなくともよくわかっていた。
◇◆◇
橋岡さんと話をした後、マンションへ帰った私のケータイにハルさんから連絡が入ってきた。
今夜は遅くなるから夕飯はいらない。そのメッセージを見た瞬間、橋岡さんの『今夜、お二人は久しぶりにお会いになるようですよ』という言葉を思い出した。
婚約を解消して以降、澪さんとは会っていないとハルさんは言っていた。今夜会うというのが本当なら、どうして突然?というかどうして橋岡さんはそれを知っているんだろう。駆け落ちをして家を出た澪さんの行動を、木坂家に仕える彼が知っているんだろう。
考えられる可能性としては、見張りを付けるなど何らかの方法で澪さんの行動を逐次探っているということ。それからそもそも、橋岡さんの言っていたことが嘘だということ。
翌朝。ハルさんは普通に起きてきたし、いつも通り一緒に朝食を食べた。だけど、昨夜何故遅かったのかということは何となく聞けなかった。「澪と会っていたんだ」と言われたるのがどうしてだか怖い気がした。