ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
この目標は、家族にさえ語ったことはない。だけど本当は、誰かに聞いてもらいたかったような気がする。
「そのためにまずは、服について基礎から学ぼうと思って今の大学に来ました。……ここを選んだのは比較的学費が安かったからっていうのもありますけど」
「なるほど。……素敵な夢だと思う」
ハルさんはふわっと柔らかな微笑みを浮かべた。
そして、一口お茶をすすった後、少し表情を引き締めて言った。
「話を聞かせてくれて嬉しいよ。次は僕の番だね。夏怜ちゃんが聞きたいと思っていること、何でも答える」
なるほど。いきなりそんなことを聞いてきたのは、私がハルさんに質問しやすい状況を作るためだったのか。
聞きたいこと、ね。
「……誕生日はいつですか?」
「ん?」
「誕生日」
「三月十七日だけど」
「まだしばらく先ですね」
「うん……え、聞きたいのってそんなこと?」
そんなこととは何だ。私はハルさんについてそんなことすら知らないんだ。
私は思い浮かんだ質問を次から次へ言っていく。
「好きな食べ物は何ですか?」
「んー、パスタとか好きかな」
「犬派ですか猫派ですか」
「断然猫」
「楽器は何かできたりしますか?」
「大学のとき少しだけベースやってたよ」
「……この前、澪さんと会って、何の話をしてたんですか?」
テンポ良く答えていたハルさんの声が止まった。その顔には、どこか満足そうな色が浮かんでいた。
「きっとそれが一番知りたかったことだよね」
「……誕生日だって知りたかったですよ」
「はは、じゃあ祝ってくれるつもりなのかな。楽しみにしてよう」