わたしたちの好きなひと
 ボールを見つめている恭太は、いつも眉毛をよせて、まぶしいものを見ているひとのよう。
 ぽんぽんとボールが恭太の太腿(ふともも)ではずむ。
 恭太がボールに夢中なときは、わたしでもこっそり恭太の顔が見られる。
 いつだって自分勝手にあちこちハネている前髪。
 毎日毎日グラウンドを走りまわるせいで、陽に焼けて傷んでいる髪を掛居はからかうけど気にもしない。
 わたしが、変わらないなぁと思えるのは、そんなことくらいだ。

 どんなに掛居に(いさ)められても、いたずらをして先生に怒られていた、やんちゃだった恭太。
 いつも笑っていた記憶のなかの恭太は、もういない。
 恭太の笑顔はもう、わたしには見られない。
 わたしがいると恭太は笑わない。
 とっくに…気づいてる。

「呼ばれたみたいなんだけど……」
 誰の声だったかなんてわかっているくせに。
 恭太に話しかけないわたし。
「これ――…」
 言いながら恭太は、ボールを背中に乗せてうつむいた。
 だれも気がつかないだろうけど。
 恭太はわたしを絶対、見ない。
 (ばか……)
 恭太が忘れてくれないと、わたしは立ち直れないんだよ。
 だって。
 ふられたのは、わたしなんだから。
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