わたしたちの好きなひと
 そろそろ学期末試験の心配もしなくちゃいけないけど。
 どんどん短くなっていく太陽のお慈悲を感じながら、わたしは屋上に立つ。
 はああ一っ
 かじかむ掌に息を吐きかけて温めて。
「もう息も、真っ白だなぁ」
 つぶやいたらギギィーっとドアが開く音。
「お、いたいた」
 スチールのドアを押し開けて、屋上に出てきたのは掛居。
 制服の上にモスグリンの51パーカーなんか着こんじゃって。
 見るからに、ぬくぬくのほわほわ。
 わたしは考えなしだから、マフラーもロッカーに入れたままだ。
「今日は最後までいるのか? めずらしいな」
「だって。岡本が、いろって言うんだもん」
 掛居が日々長くなるワンレンをさらっとゆらして、こっくり首をかしげる。
「おまえら、なにかあった?」
「――ないよ。別に」
 ふたりで泣いたことは、わたしと岡本の秘密。
「ふーん……」
 掛居がわたしのとなりにきて。
 並んで見おろすグラウンドで。
 恭太がボールを高く蹴る。
 いまはもうグラウンドの恭太からもこちらが見えるのを知っているし。
 それでも屋上通いをやめないのは、好きよ好きよ…って言っているみたいで、照れくさいけど。
 口に出しては言えないから、屋上はやっぱりわたしの定位置だ。
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