わたしたちの好きなひと
 掛居がのっそり手すりにかがんで頬杖をつく。
「つまんねーの。もっとバチバチ、女の戦いってやつが、あるかと思ったのになぁ」
 か…けいぃぃぃ。
 ひとごとだと思ってぇ。
「おれは、シューコには、とってもそんなまね…できないからさ。ちょっと期待してたんだ。あいつなら、おまえのこと、いじめてくれるかもしれないと思って」
 笑ってるけど、笑ってない。
 この茶色い目には見覚えがある。
 (わっ)
 突然、掛居がわたしの肩を抱いた。
「な…に?」
「いやさ。ちょっと思いつき」
 風で掛居の細い髪が、わたしの頬に流されてくる。
 くすぐったさをこらえながら、眉毛で質問。
 (なんの?)
 掛居はじっとグラウンドの恭太を目で追いかけている。
「おれなぁ……旅行の前に恭に聞かれたんだ。おまえが好きかって」
 そうか……。
 恭太、言ってたもんね。
拓弥(たくみ)の気持ちは、わかってるんだ』って。
 なんにも、わかってなんか…ないくせに、ね。
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