わたしたちの好きなひと
 恭太がボールに向かっていくと呼吸も止まる。
 高校からDFに転向した恭太はチームを守るひとだから。
 恭太だけを見つめていても見失ってしまうくらい、激しい攻防のただなかにいる恭太を見守るしかないわたしは日々強くなる。
 恭太が競り負ければ、ゴールを守るのはキーパーとセンターバックの3年生ふたりになってしまうから。
 相手チームのストライカーがシュートを打つ前に、恭太だけを見ているわたしには結果も見えてしまう。
 失点の悔しさに、ひとり拳を握る恭太。


 恭太は、中学のときは、やんちゃなストライカーで。
 両手を上げて吠える恭太をわたしは何度も見た。
 サッカーのルールなんて知らなくても、得点したのはだれにでもわかるから、ゴールを決めて仲間たちに囲まれる恭太は、きっとだれの目にもまぶしいヒーローだったはず。
 わたしも……
 観客席にいるわたしを見つけてくれる恭太に、だれよりも大きく手を振った。
 今は……
 わたしが見つめていることを恭太は知らない。

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